8月9日、地球温暖化の現状を明らかにするIPCCの最新の報告書が公表されました。
グテーレス国連事務総長は「人類にとってのコード・レッドである」と危機感をあらわにしています。
一体、どのような内容がレポートされたのでしょうか?
今回は、IPCCの第6次評価報告書・WG1についてわかりやすく解説します。
世界中の科学者が集うIPCCとは?
報告書を発行した国際機関のIPCCとは
「気候変動に関する政府間パネル
(Intergovernmental Panel on Climate Change)」を指します。
1988年から気候変動問題に関する活動を続け、2007年にノーベル平和賞を受賞しました。
先進国や発展途上国の垣根を越えて世界中から何百人もの科学者が集い、気候変動の研究データをとりまとめています。
報告書を発表するまでには1万本を超える論文を引用し、レビューを繰り返すといいます。
IPCCの報告書が国連や世界各国から信頼されているのは、こうしたプロセスの公平性・透明性を重視しているからです。
数年おきに評価報告書を発表
IPCCが5~7年おきに発表するのが「評価報告書(AR:Assessment Report)」です。
自然科学的根拠に関する第1作業部会(WG1)、影響や適応・脆弱性に関する第2作業部会(WG2)、緩和策に関する第3作業部会(WG3)によって構成されます。
1990年の第1次報告書から、これまでに5つの評価報告書が発行されてきました。
2013年の第5次評価報告書では、産業革命以降、地球の平均気温が0.85℃上がったとレポートしました。
ほかにも、不定期の特別報告書などを発行しています。
2018年の「1.5℃特別報告書」では、温暖化がこのまま進めば、2030~2050年には気温が1.5℃上がると注意を促しました。
最新の報告書で明らかになった現状は?
8月9日には、第6次評価報告書(AR6)のうち、第1作業部会の報告書が発表されました。
ポイントは「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」とした点です。
つまり、地球温暖化の要因は人間活動であると断言したのです。
これまでは温暖化の原因は人間活動である可能性が高いとし、明言は避けられてきました。
今回「疑う余地がない」という強い表現を用い断定したことは、重要な変化だといえます。
(画像出典:環境省『気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書 第1作業部会報告書(自然科学的根拠)』)
上のグラフは、産業革命以後の世界の平均気温を示したものです。
オレンジ色が人間活動と自然要因による気温変化の観測値、緑色が自然要因のみによる気温変化のシミュレーションです。
オレンジ色のグラフだけが大幅に高くなっており、人間活動による気温変化がいかに大きなものであるかが読み取れます。
今後の気温変化はどうなる?
報告書では、2100年までの温暖化の予測も示されています。
これからの数十年間でCO2を大幅に減らさなければ、気温が2℃以上、上がるとされました。
(画像出典:環境省『気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書 第1作業部会報告書(自然科学的根拠)』)
上のグラフは、2100年までの気温上昇の変化をシミュレートしたものです。
CO2削減量による気温上昇を、5つのシナリオに分けて予測しました。
気温の上昇は、CO2削減量が多ければ小さく、削減量が少なければ大きくなるとされています。
注目したいのは、パリ協定で定める「2℃目標」のラインです。
5つのシナリオのうち、上から3つでは2℃のラインを大きく越えています。
気温上昇を2℃未満に抑えることができるのは、下から2つのシナリオのみ。
つまり、大幅なCO2削減に成功しなければ、2100年までの気温上昇を2℃までに抑えることができないのです。
1.5℃未満の抑制については、もっともCO2削減量の多いシナリオでも厳しい予測が示されました。
こうした現状や予測から、グテーレス国連事務総長が危機感を表現した理由がおわかりいただけたかと思います。
決して楽観視できない温暖化の状況が、データとして突きつけられたのです。
気温上昇によって引き起こされる変化とは?
温暖化が進むと、極端な高温や海洋熱波、大雨、干ばつ、強い熱帯低気圧の割合などが拡大するとされました。
日本に関していうと、北西太平洋の強い熱帯低気圧のピークが北上することで、発達した台風のピークが日本列島付近となる可能性が高まります。
また、海面上昇による影響も懸念されます。
世界の平均海面水位は、1901~2018年の間で約0.20m上昇したとされています。
今後、海洋深部の温暖化が進むと、数百年どころか数千年にわたって海面上昇が続くとされました。
このような温暖化の影響はひとつずつ起こるものではありません。
変化が重なって大きな被害をもたらすこともあるでしょう。
例えば、海面上昇と豪雨災害が同時に起こるとどうなるでしょうか?
沿岸地域など、浸水被害が発生するエリアが拡大すると予想されます。
温暖化がもたらすリスクは複合的になりうるという点も、注意すべきではないでしょうか。
もっと知ろう、温暖化のこと
地球温暖化は、どこか遠い国の出来事ではなく、私たちの暮らしにリスクをもたらすものです。
すでに温暖化が進行している世界で生きる私たちは、このリスクにしっかりと向き合い、対処を考えなければなりません。
世界は常に変わっていて「これまで通り」のやり方では通用しなくなっています。
そのためには、温暖化の実情を把握することが第一歩ではないでしょうか。
IPCCの第6次評価報告書は、2022年にかけて第2作業部会、第3作業部会の発表があり、最終的に統合報告書にまとめられる予定です。
こちらも随時ご紹介していきたいと思います。